アンドラ 十二景の戯曲

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Akira Ichikawa Collection No.5
マックス・フリッシュ 作 市川 明 訳
新書判/106×173mm/442頁
並製本/本文特色印刷/ドイツ語原文付き/2018年
AD+D+DTP:松本久木
ISBN 978-4-944055-95-1



市川明によるドイツ語圏演劇翻訳シリーズ第5巻

偶数頁にドイツ語原文を底本に即した形式で掲載し、奇数頁に日本語新訳を掲載することで作品鑑賞のみならず、日本とドイツ語圏諸国の文学や文化の比較研究を試みる読者・研究者の便をも図る意欲作であり画期的な一書である。

“ 「距離化による生産性」ということが問題にされる時、モデル劇という筋の媒介形式が語られねばならない。作者自身が言うように「アンドラは一つのモデルに与えられた名前である」。「『アンドラ』の筋はモデルであって、ヒストリー(歴史劇)ではない」。そこではヒトラー・ナチスが起こしたユダヤ人大虐殺(ホロコースト)という歴史的事件の背景や、その社会的原因はほとんど問題にされていない。それは戦争、ファシズムという複雑なできごとを、その脅威が日に日に迫る隣国の庶民の生活・心理状況の断片をつなぎ合わせることによって、モデル化したものである。これにより、反ユダヤ主義が生み出した人種差別がホロコーストへとつながり、世界を戦争の渦に巻き込んだという、大きな事象の根源に光が当てられる。平和と自由の砦と言われた国においてさえも、人間の野蛮化、倒錯化が起きたという本質的な側面が強調されるのだ。観客に強いインパクトを与え、能動的な舞台参加を促すためには、モデルは否定的なものでなければならない。大切なことは観客が与えられたモデルから自己の現実にあわせてそのヴァリアント(変型)を作りあげ、さらにそれに対するアンチモデルを描きだすことだ。「モデルが変えられてはじめて、歴史から学ぶことができる」のだが、この仕事を「受け手」として観客にゆだねているがゆえにモデル劇は、まだ十分に試されていないがおそらくもっとも可能性の大きなタイプである。この作品は仕掛けの大きい教材劇・教育劇(Learningplay, Lehrstück)と言えるのかもしれない。
 フリッシュはブレヒトのオプティミズムに与しなかった。勝者のいないドラマ、主要な人物の死で終わるドラマ、大きな出来事が何ひとつ舞台上で示されないドラマ、変革の契機が見えてこないドラマ、善人を生み出すことのできない社会ドラマ、ユダヤ人の登場しない反ユダヤ主義を扱ったドラマ、遡及的な構造を持ったドラマ……フリッシュは『アンドラ』で従来のドラマの構造や内容の枠を打ち破る作品を打ち立てた。これが本当の意味でのリアリズムなのかもしれない。ただ『アンドラ』の場合は提示されたモデルは必ずしも単純化されたモデルではない。それだけに観客がそのモデルを打ち破るような強い力を発揮できるかどうかは不明な点も多い。だがフリッシュが選んだペシミズムには、どこかに観客に対する深いオプティミズムが隠されているように思える。この強さのペシミズムの中にフリッシュの真髄がある。
(市川明「解題」より) ”



市川 明(いちかわ・あきら)
大阪大学名誉教授。1948年大阪府豊中市生まれ。大阪外国語大学外国語学研究科修士課程修了。1988年大阪外国語大学外国語学部助教授。1996年同大学教授。2007-2013年大阪大学文学研究科教授。
専門はドイツ文学・演劇。ブレヒト、ハイナー・ミュラーを中心にドイツ現代演劇を研究。「ブレヒトと音楽」全4巻のうち『ブレヒト 詩とソング』『ブレヒト 音楽と舞台』『ブレヒト テクストと音楽──上演台本集』(いずれも花伝社)を既に刊行。近著に“Verfremdungen”(共著Rombach Verlag, 2013年)、『ワーグナーを旅する──革命と陶酔の彼方へ』(編著、松本工房、2013年)など。近訳に『デュレンマット戯曲集 第2巻、第3巻』(鳥影社、2013年、2015年)など。多くのドイツ演劇を翻訳し、関西で上演し続けている。



マックス・フリッシュ(1911–1991)
スイスの小説家、劇作家、建築家。戦後スイスを代表する作家の一人。「国民国家」や「アイデンティティー」といった近代的価値観を喪失した戦後社会において、自己とは何かを問い続け、小説、戯曲、散文など幅広い形式で数多くの作品を残した。

1911年チューリッヒの建築家の家に生まれる。チューリッヒ大学でドイツ文学を専攻するが退学。新チューリッヒ新聞社で記者兼コラムニストとして働く。1936年スイス工科大学に入学し、建築学を修める。同級生の妻とともに建築事務所を開き、建築設計業の傍ら文筆活動を行う。学生時代から通っていたチューリッヒ劇場の総監督にすすめられ戯曲の執筆を開始。1944年初の戯曲『サンタクルス』を発表。小説『シュティラー』(1954)で脚光を浴び、それを機に建築設計業を辞め、作家活動に専念する。真実を求めて旅をする男を描いた小説『ホモ・ファーベル』(1957)の発行数が400万部を超える。その後、小説『我が名はガンテンバイン』(1964)、戯曲『ビーダーマンと放火犯たち』(1957)、『アンドラ』(1961)などの重要な作品を発表し、多数の文学賞を受賞。1991年癌のためチューリッヒで死去。

運命や社会に翻弄され、自己疎外に陥るポストモダン的人間像を赤裸々に表現したフリッシュの著作は、ドイツ語圏だけでなく世界中の人々に多大な影響を与え、25カ国語に翻訳されている。

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